資料4 河川の浚渫に関する建白書
資料4 河川の浚渫に関する建白書(倉敷市所蔵尾崎家文書)


【翻刻】
乍恐以書付奉建白候
此度西河堤潰決仕リ、河東南数十村ノ人民水害ヲ
蒙リ候事、不容易恐入候次第ニ御座候、右西河
之義ハ当備中国之命脈ニシテ、数十村ノ人民田疇灌
漑ノ係属スル所、其恩沢莫太ニ御座候、併シ一
度ヒ潰決仕候得ハ、其患害亦巨大ニ御座候
事、即今ノ如クニ有之候、昔年ハ潰決稀有ニ御
座候由、然ルニ河源奥筋ニ造鉄所有之、年
々鉄砂流出、河身埋没仕リ、加之近年備前
福田新田築立ニ相成リ、河尻壅塞仕候哉、
去ル嘉永三戌年六月、安江并ニ四十瀬堤
潰決仕候、爾来廿年ヲ不過、前時水害ヲ
蒙リ候人民瘡痍未タ愈ザルニ、今年又々潰
決仕候、此後頻繁潰決仕候得ハ、数十村ノ
人民安居難仕、流離逃散ノ外無之、実ニ以
憂悶悲痛ノ至ニ奉存候、モツトモ往昔ヨ
リノ仕来既往ノ事ニ御座候得ハ、今
更鉄山御廃止ニモ難相成、福田新田御
取潰モ難出来御場合ニ奉存候、右二件
ニ拘ラズ永世不易ノ一策、別記ニ建言仕
候、万一御採用ヲ蒙リ候得ハ、独リ当国
西河一所ノミニアラス、凡ソ海内帯河ノ国、永
世決溢ノ患ナク、皆将ニ春耕夏作秋収冬
蔵、至治ノ化域ニ休息セントス、小民輩報
国ノ芹誠難黙止、乍恐奉縷述建白候
別記
決河洪水ノ患、世トシテ之レ無キハナク、国トシテ之レ
無キハナシ、一度潰決スル毎ニ人民ノ憂苦不可勝
言、経国ノ責ニ任ズル人焦心苦慮セザルヘカラ
サル所也、却説外国広邈ノ地ハ不是非及、
皇国ノ為地形幅員浅狭ニシテ不満五十里、
周囲海岸ニシテ灌注漏泄ノ路程遠カラス、是レ
皇国ノ海外万国ニ卓越シ、殷富蕃庶ナル
所以ナリ、然レハ
皇国ニ於テ決河洪水ノ患ハ万世之レ無キ
筈ノ事ナリ、然ルニ比年邦内処々ニ於テ洪
水ノ患陸続不絶ハ、全ク堤防ノ斤量叶
ハス、人事ノ未タ尽スルニ由ル也、サテ堤防ノ斤量
ト言フハ、譬ヘハ河幅三町アレハ堤趾モ左右各
三町宛空地ニシテ除ケ置キ、其河ノ恩沢ヲ受
ケ、其河ノ患害ヲ蒙リ候村々エ号令ヲ下シ、
農隙々々ニ四民ノ差別無ク人歩ヲ催促シ、
無賃銭・持弁当ニテ、河中ノ土砂を左右ノ空
地エ運ハセ、又徒刑之モノヲ駆立、終年無間断
土砂ヲ持捨サスベシ、斯クシテ三、五年ヲ経ル寸
ハ、左右ノ堤ハ丘山ノ如ク、河流ノ底ハ深淵ノ
如クニシテ、如何ナル淫霖大雨アリト雖モ決河
洪水ノ患ナク、万々無之ナリ、右之通河幅ニ
準シ左右余程ノ空地ヲ除ケ置ク事、現在
良田ヲ廃棄シ永世不毛ノ地トナス訳ニテ可惜事
ナレハ、利ニ周キ人ハ必定異議ヲ発スル事も有
ヘシ、併シ是ハ一指ヲ切断シテ肩背ヲ救ノ道
理ナレハ、衆議ヲ顧ミス断然トシテ果シ行フベシ、
積年河中ノ土砂ヲ左右ニ積立テ丘山ノ勢成
シ、后ハ河側近傍ノ諸民ヲシテ畠同様ニ種
芸ヲ施シ、或ハ竹木ヲ生長ナサシメ、或ハ室屋
ヲ建立ナサシムヘシ、左スレハ必竟田ヲ廃シテ畠
ト成ス迄之事ニテ、全然廃棄不毛ト云フニハ
至ラザルベシ
尚、此一事ニ就テハ莫太ノ御用度もコレ有ヘシ、
其等ノ算計、造築之施設等、平生講究仕候臆
度私見モ御座候得ハ、自余ノ義ハ口上ニテ縷述可仕候、以上
【読み下し】
恐れながら書付をもって建白奉(たてまつ)り候
このたび西河堤(つつみ)潰決(かいけつ)仕(つかまつ)り、河東南数十村の人民水害を蒙り候(そうろう)事、容易ならず恐れ入り候次第に御座候。右西河の儀は当備中国の命脈にして、数十村の人民田疇(でんちゅう)灌漑の係属する所、その恩沢莫大に御座候。しかし、ひとたび潰決仕り候えば、その患害また巨大に御座候事、即今のごとくにこれあり候。昔年は潰決稀有に御座候由。しかるに河源奥筋に造鉄所これあり、年々鉄砂流出、河身埋没仕り、しかのみならず近年備前福田新田築立てに相成り、河尻壅塞(ようそく)仕り候や、去る嘉永三戌年六月、安江ならびに四十瀬堤潰決仕り候。爾来(じらい)二十年を過ぎず。前時水害を蒙り候人民瘡痍(そうい)いまだ癒えざるに、今年またまた潰決仕り候。この後頻繁潰決仕り候えば、数十村の人民安居仕りがたく、流離逃散の外これなし。実にもって憂悶悲痛の至りに存じ奉り候。もっとも往昔よりの仕来り既往の事に御座候えば、今更鉄山御廃止にも相成りがたく、福田新田御取り潰しも出来がたき御場合に存じ奉り候。右二件にかかわらず永世不易の一策、別記に建言仕り候。万一御採用を蒙り候えば、独り当国西河一所のみにあらず、およそ海内帯河の国、永世決溢(けついつ)の患(うれ)いなく、皆まさに春耕夏作秋収冬蔵、至治の化域に休息せんとす。小民輩報国の芹誠(きんせい)黙止がたく、恐れながら縷述(るじゅつ)建白奉り候。
別記
決河洪水の患い、世としてこれなきはなく、国としてこれなきはなし。ひとたび潰決するごとに人民の憂苦勝言すべからず。経国の責に任ずる人焦心苦慮せざるべからざる所なり。却説外国広邈(こうばく)の地は是非に及ばず、皇国の地形たる幅員浅狭にして五十里に満たず、周囲海岸にして灌注漏泄(かんちゅうろうせつ)の路程遠からず。これ皇国の海外万国に卓越し、殷富蕃庶(いんぷばんしょ)なるゆえんなり。しかれば皇国において決河洪水の患いは万世これなきはずの事なり。しかるに比年邦内処々において洪水の患い陸続絶えざるは、全く堤防の斤量叶わず、人事のいまだ尽きざるによるなり。さて堤防の斤量と言うは、たとえば河幅三町あれば堤趾も左右各三町ずつ空地にして除け置き、その河の恩沢を受け、その河の患害を蒙り候村々へ号令を下し、農隙々々に四民の差別なく人夫を催促し、無賃銭・持弁当にて、河中の土砂を左右の空地へ運ばせ、また徒刑のものを駆り立て、終年間断なく土砂を持ち捨てさすべし。かくして三、五年を経るときは、左右の堤は丘山のごとく、河流の底は深淵のごとくにして、いかなる淫霖(いんりん)大雨ありといえども決河洪水の患いなく、万々これなきなり。右の通り河幅に準じ左右余程の空地を除け置く事、現在良田を廃棄し永世不毛の地となす訳にて惜しむべき事なれば、利に周(ちか)き人は必定異議を発する事もあるべし。しかしこれは一指を切断して肩背を救うの道理なれば、衆議を顧みず断然として果し行うべし。積年河中の土砂を左右に積み立て丘山の勢い成し、あとは河側近傍の諸民をして畠(はたけ)同様に種芸を施し、あるいは竹木を生長なさしめ、あるいは室屋を建立なさしむべし。さすれば必竟(ひっきょう)田を廃して畠と成すまでの事にて、全然廃棄不毛と言うには至らざるべし。
なお、この一事については莫大の御用度もこれあるべし。それ等の算計、造築の施設等、平生講究仕り候臆度私見も御座候えば、自余の義は口上にて縷述仕るべく候。以上
【意訳】
恐れながら書面にて意見を申し上げます
このたび高梁川の堤防が決壊し、川の東南数十か村の人民が水害をこうむったことは、本当に恐れ入る次第です。高梁川は備中国の命脈であり、数十か村の人民の田地に水を供給し、その恩恵は測り知れません。しかし、ひとたび決壊すれば、その被害もまた甚大であることは、今の様子を見れば明らかです。かつては、めったに決壊することはありませんでした。しかし、上流部における鉄の生産にともなって鉄砂が流れ出し、年を追うごとに川が埋まり、しかも近年備前の福田新田が開発されたことで河口がふさがれ、海に水が流れにくくなったからか、去る嘉永三年六月に安江と四十瀬で堤防が決壊しました。それから二十年も経っていません。前回の水害において人民の受けた傷跡もまだ癒えないうちに、今年再び決壊しました。今後頻繁に決壊すれば、数十か村の人民は安心して暮らすことができず、離散するほかありません。実に憂うべく悲しむべきの至りです。とはいえ、これまでの経緯からして、今さら鉄山を廃止するわけにも、福田新田を取り潰すわけにもいきません。その二つの困難に負けない恒久的な方策を別記のように提案いたします。もしご採用になれば、ひとり備中の高梁川のみならず、全国の河川の沿川地域を、いつまでも堤防決壊のおそれなく、誰もが安定して農業を営むことのできる楽園とすることができます。国に報いたいとのささやかな誠に駆られ、恐れながら詳しく意見を申し上げます。
別記
堤防が決壊して洪水が起こるおそれは、いつの時代も、どこの国でもあることです。ひとたび決壊するごとに人民の憂いや苦しみは言い表せないほどです。国の政治にあたる人は、それに心を砕かねばなりません。さて、土地の広大な外国とは異なり、日本国は幅が五十里(約200キロメートル)にも満たない細長い地形で、周囲は海岸になっているため灌漑や排水に要する距離は短くて済みます。このため日本国は諸外国よりもずっと豊富な稔りがあり、洪水のおそれもないはずです。にもかかわらず、近年国内のあちこちで絶え間なく洪水が起こるのは、まったく堤防の規模が足りないからで、それは人間の努力が十分に尽くされていないということです。さて、堤防の規模を増すためには、たとえば川幅が三町(約300m)あれば、堤防の左右それぞれ三町ずつを空地として確保し、その河川の恩恵を受けている、またはその被害を受けている村々へ命じて、農閑の折々に身分を問わず人夫を動員し、賃金なしの弁当持ちで、河中の土砂を左右の空地へ運ばせ、また懲役人を使役して、一年中絶え間なく土砂を運び捨てさせるべきです。そのようにして三年から五年経てば、左右の堤防は丘のように、川底は深淵のようになり、どんな長雨・大雨があっても決壊・洪水のおそれは決してありません。そのように川幅に応じて左右に広い空地を設けることは、現在の良田を潰して永く不毛の地とすることで、惜しいことです。利益ばかりを考える人はきっと異議をとなえるでしょう。しかし、これは胴体を救うためには指を切るのも仕方がないのと同じ道理で、世論にとらわれず果断に実行しなくてはなりません。毎年河中の土砂を浚って堤防の左右に積み上げて丘をつくり、あとは川の近くの住民に畑として耕作させ、あるいは竹や木を植えさせ、あるいは家屋を建てさせればよいでしょう。そうすれば、結局は田を畑に変えるだけのことで、まったくの不毛の地になるというわけではありません。
なお、この事業には多額の費用がかかるでしょう。その計算や工事の仕方など、日ごろ考えてきた内容については、口頭にて詳しく申し上げます。以上
このページに関するお問い合わせ
倉敷市 総務局 総務部 総務課 総務係
〒710-8565 倉敷市西中新田640番地
電話番号:086-426-3121 ファクス番号:086-421-2400
倉敷市 総務局 総務部 総務課 総務係へのお問い合わせ










