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フィリピン滞在記Vol.1

フィリピン滞在記Vol.1

フィリピン滞在記 タイトル

JICA青年海外協力隊として、フィリピンで食用作物・稲作栽培の指導をしている中原稔(なかはら みのる)さんのレポートをお届けします。第1弾はオーガニック栽培の技術指導と農民の収入向上に関する活動について報告します。

皆さん、はじめまして。中原稔と申します。

私はフィリピンのネグロス島、ネグロス・オリエンタル州シブラン町で野菜とお米のオーガニック栽培の技術指導をしております。協力隊に応募しようと思っている方や、活動に興味のある方のお役に立てる情報を紹介できればと思っております。

任地紹介

私の住むネグロス島シブラン町は、観光地として有名なセブ島の左隣にあります。シブラン町からセブ島には船でわずか20分という近さです。小さな空港もあり首都マニラからの移動も楽です。隣町であり州都であるドゥマゲッティ市は欧米人に人気の観光スポットです。海沿いのレストランでのんびりとお酒を飲んだりスキューバダイビングを楽しんだりしています。フィリピン全土に美しいリゾートとダイビングスポットがあり、値段も安くダイバーにとっては最高の国です。ちなみにダイビング1本のお値段は機材全て込みで3千円前後です。ホテルも一泊2千円前後からありますよ。是非フィリピンに遊びに来てください。

フィリピン風景1
フィリピン風景2
フィリピン風景3

フィリピン人の国民性

フィリピン人は非常にのんびりとしています。仕事は8時から5時までですが、お昼以外に10時と3時にミリエンダと呼ばれるおやつを食べる時間があります。そして仕事ものんびりとしています。日本のように時間に追われ、ストレスを感じながら仕事をすることはありません。だからフィリピンの人はよくしゃべりよく笑います。一長一短ありますが、私は人生を楽しんでいて素敵だなあと思います。またフィリピン人はプライドが高く、人前で怒られることを嫌います。そのため他人に注意をすることも少なく、現場での改善が行われにくいようです。ただトップの人間が何かをやろうと宣言したらそれに従うようです。日本人の感覚だとイライラしてしまうこともありますが、そこは郷に入っては郷に従えで、その国の人の感覚を尊重することが大切だと思います。

活動の心得

活動において最も大切なことは任地の人との良好な人間関係の構築です。これ無くして活動で結果を残すことはできません。国民性を理解し、尊重すること。そして仲良くなった後で提案型の意見を出してみる。決して上から命令してはいけません。我々は会社の上司ではなく、ボランティアなのですから。そしてたとえ意見が受け入れられなくても腐らないこと。こちらが提案したことをすぐに実行してくれることはごく稀です。ほとんどの場合、返事だけはするがそのあと音沙汰がないというものです。なぜ実行してくれないのか理由を聞くと、だいたいお金がない、忙しい、空返事のどれかです。ここでやる気をそがれるボランティアが多くいます。でも諦めてはいけません。うまくいくことのほうが珍しいのです。

私たちの任期は2年間です。2年間で何らかの結果を残すことは非常に難しいと言われています。また任期が終了して帰国した後に活動の成果が途切れてしまうことも珍しくありません。しかし、だからといって投げやりになってはいけません。

協力隊活動は農業に通じるものがあります。私たちの活動とは、変化の種、改善の種を蒔き続けることなのです。諦めずに種を蒔き続けることでしか結果という果実は実らないのですから。もちろん蒔いた種が発芽して成長しやすい環境を整えてやることも大切です。良好な人間関係の構築がこれに当たるのではないでしょうか。ガチガチの硬い土地よりも柔らかく耕された土地の方が発芽率も成長速度も良いでしょう。また、その土地にあった種を見つけることも大切だと私は考えます。在来種はその土地に適応した性質を持っています。国民性の理解と尊重がこれに当たるのではないでしょうか。兎に角、諦めずに、辛抱強く、いろんな種類の種を蒔いてみましょう。育ち易い種がきっと見つかるはずです。

活動報告

私の要請内容はオーガニック栽培の技術指導と農民の収入向上です。村々を回って技術を教えるというものでした。私は考えました。果たして日本から来た若造が、いきなりああしろこうしろと言ったところで素直に聞いてくれるだろうかと。農民の方々は年配の方が多く、皆さん自分なりの経験と技術を持っています。さらにフィリピンではオーガニックに良い印象を持っていない人が多いということでした。これはフィリピンでも一時オーガニックが流行り、やってみたが上手くいかなかったからのようです。成長が遅いとか、害虫に食べられるといったイメージがあるようです。化学肥料と農薬に慣れてしまった人たちにとっては仕方のないことです。

もう一つ問題がありました。フィリピンにもオーガニックの認証制度があるのですが、あまり認知されていないということです。つまりオーガニックだから高くても買おうという人が少ないのです。都会のお金持ちの中でもごく一部の人しか価値を認識していない。これでは田舎でオーガニック野菜を作っても収益は増えません。むしろ手間暇が掛かり収量も少なくては、やるだけ損です。実際田舎の市場ではオーガニックと謳っている野菜が売られていますが慣行農法の野菜と値段は変わりません。付加価値が全く付かないのです。

このような状況の中で私はまず、自分で野菜を作ってみることが先決だと感じました。フィリピンの気候と土壌で、日本で学んだ技術が通用するのか試す必要があると思いました。中途半端な結果しか出なかったら、フィリピンの人たちに、やっぱりオーガニックは難しいというイメージを植え付けてしまいます。美しく育ったオーガニックの畑を見せて、オーガニックでもこんなにいいものが作れるんだということを実際に目で見てもらうことが一番のやる気につながると考えました。美しい畑を見せて、そこでワークショップを行い、興味を持ってくれた人を集中的に指導していこうと決めました。その人たちがオーガニックで結果を出せば、技術は自然に広がっていくと思うからです。

幸い職場にオーガニックの実験農場が小さいですがあったので、そこの土地を使わせてもらえることになりました。いろいろな作物を作ってみて感じたのは、日本よりも害虫の種類が多いということです。例えば日本ではゴーヤにはほとんど害虫が付きませんが、こちらでは実が小さいうちからミバエという害虫が卵を産み付けて、中身を幼虫が食べて枯らしてしまいます。ナスやウリにも幼虫が入り込みます。この他の野菜にも害虫がやってきます。自然農薬を使ってもあまり効果が見られません。今のところ手で捕殺するか、ウリ等には袋を掛けるしか方法がありません。そんな中で比較的オーガニックでもつくり易い野菜がいくつかわかりました。オクラ、モロヘイヤ、ささげ、きゅうり、空芯菜、里芋、大根、あずき、等です。もちろんこれらの野菜にも害虫はやってきます。しかし、被害が小さいので収穫できるのです。

ピーマン
ピーマン
オクラの花と実
オクラの花と実
有機農園

フィリピンの市場に並ぶ野菜は日本のように綺麗なものばかりではありません。でも私はそのほうが良いと思います。日本のように形を揃え、傷一つない野菜を出荷するには、たくさんの農薬を使い、規格外として捨てられるものが多く存在します。こんなに、もったいないことはありません。少しぐらい形が悪くたって、傷があったって、味には影響は無いのですから。今の日本人は見栄えばかりを気にして味は二の次です。消費者の意識を変える必要があると私は感じています。そして、何よりも、出来た作物に対する“感謝の気持ち”を忘れないで欲しいと思います。

収入向上の為に

フィリピンの多くの農民は化学肥料を買うために借金をして、野菜ができたらそれを売り借金を返すということを繰り返しています。これでは収入が向上するはずがありません。化学肥料を使うことをやめるか、使用量を減らすだけでも出費が減ります。その為には有機肥料堆肥作りがとても有効です。有機肥料堆肥の材料になるものは、米ぬか、籾殻、おがくず、刈草、落葉、バナナの葉、家蓄糞、生ゴミ、ヤシ殻、廃糖蜜(サトウキビから砂糖を精製するときに出る黒い蜜)等です。どれもタダかとても安く手に入るものばかりです。しかし、フィリピンの人たちは落ち葉や枯れ草などを燃やしてしまう事が多いのです。せっかくタダで手に入り、大量にある有機物を有効に活用していなかったのです。

堆肥の作り方は簡単です。材料を小さく刻み、一定の割合で混ぜて水分量を約60%に調節して毎日攪拌するだけです。発酵には酸素が必要なため、初めのうちは1日1回堆肥の山を攪拌します。初期は微生物の爆発的な増殖によって発酵熱が70~80度にもなります。そして徐々に発酵熱も下がって来るので、撹拌の回数も三日に一回、一週間に一回と徐々に減らしていきます。1ヶ月から2ヶ月後には完成です。フィリピンは一年中夏ですので堆肥作りにはもってこいの環境なのです。そして、今までゴミとして扱っていた有機物を使って堆肥を作ることは、ゴミからお金を生み出すことになるのです。これは貧しい農民にとって素晴らしい事です。さらに堆肥を土と混ぜる事により、土壌が改善され微生物のたくさん棲む良い土になります。良い土で育った野菜は健康で病気にかかりにくいので、農薬の使用量も減ります。この堆肥作りをぜひフィリピンの農民に根付かせたいと思っています。

天恵緑汁、フィリピンバージョン
天恵緑汁、フィリピンバージョン

もうひとつ私が期待している事が有ります。それは天恵緑汁と呼ばれるものです。これは植物の新芽を摘み取り、黒砂糖で漬け込み、出て来た汁を発酵させたものです。500~1000倍に希釈して植物に散布します。とくにヨモギやスギナ、そのほか生命力の強い雑草の新芽が良いと言われています。抽出液の中には酵素やミネラルが多く含まれており、発酵させることによりその力が何倍にもなると言われています。この力が植物を健康で元気に育てるのです。

日本で黒砂糖を買うと高いですが、幸い、ネグロス島はサトウキビの大生産地で廃糖密が安く手に入ります。20リットルで320円ぐらいです。この廃糖密にもミネラルが多く含まれています。そしてマルンガイ(日本名:わさびの木)という素晴らしい植物が有ります。マルンガイは体に良い植物としてフィリピン人に親しまれ、町の至る所に植えられています。生命力が強く、成長も早いので沢山収穫する事が出来ます。このマルンガイを天恵緑汁に入れることでより力のあるものになると期待しています。実際、マルンガイの抽出液を植物や家畜に与えた所、2~3割の収量増加が見られたという報告もあります。廃糖密もマルンガイも現地で安価で手に入るものなので、貧しい農民にも受け入れられやすいと思います。比較対象区を作り、よい結果を示し、普及に繋げていきたいと思っています。
 

稲作の活動報告

稲作においても、収量の向上が求められています。フィリピンの米の自給率は85.8%で、世界一の米の輸入国となっています。日本と同じように主食はお米です。年3~4回の作付けが可能です。フィリピンの稲作はまだほとんど機械化が進んでおらず、小型の手押し耕運機がある程度です。耕耘、代掻きに水牛を使っている農家も少なくありません。もちろん田植えは手で行います。一昔前の日本といった感じです。

ジャンボタニシ
ジャンボタニシ
日本でも被害が深刻なジャンボタニシ(左の写真)がフィリピンでも深刻な問題になっています。ジャンボタニシは田植え後の若い苗を食べてしまうのです。被害を防ぐために農薬が使われています。それでは、農薬を使わない人はどうしているのでしょうか。フィリピンでは田植え後に水を抜き田の表面を乾かします。するとタニシは乾燥を嫌って土にもぐるので苗を食べる事ができません。しかし田を乾かすと雑草の種子が芽を出し草だらけになります。また、田が必ずしも均平ではないので水のたまるところもあります。そこではタニシの食害にあってしまいます。そこで、私が考えた方法は、田んぼの中に何本か溝を作り、水をその溝に逃がし、水がたまる場所をなくします。2週間ほど田の表面を乾かします。すると雑草が生えます。そこで田に水を張ります。すると土にもぐっていたジャンボタニシが出てきて雑草を食べてくれます。ここでポイントになるのは、タニシは柔らかい新芽が好きなので雑草の新芽を好んで食べるということです。そして田植え後二週間で大きくなった稲の苗は葉も硬くなり、タニシは食べないのです。稲を食べなくても餌が沢山あるという事もポイントです。実はこの方法は日本でも既にジャンボタニシ除草法として一部の方が実践されています。
雑草のビッシリ生えた田んぼ
雑草のビッシリ生えた田んぼ
稲の有機無農薬栽培において最も問題になるのが、除草です。日本の多くの農家さんが除草機を何度も入れたり、人力で手取りをしています。これはかなりの重労働で悩みの種です。それをタニシが勝手に食べてくれるのですから、こんな楽な事はありません。嫌われ者のタニシも使い方によっては力強い味方になってくれるのです。実際に、前作で雑草だらけでほとんど収量のなかった田が、タニシ除草を実践してみたところかなりの収量向上になりました。この方法もフィリピンで定着させたいと思っています。

任期延長

この文章を書いている時点での私のフィリピン活動期間もすでに1年と8カ月になります。協力隊の任期は2年ですので、残すところあと4カ月となりました。しかしフィリピンには冬が無いとはいえ、農業における2年はとても短いものです。植物の種を播いて収穫するまでに早いもので2カ月、遅いもので4カ月ほどかかります。限られた土地でいろいろな作物を植え、色々な技術を試すには限りが有ります。さらに有効な技術を確認し、農民に教え、定着させるには、農民と共に作物を繰り返し育ててみる事が不可欠です。

もう少し時間がほしい。という事で、私は活動期間を6ヶ月間延長することにしました。何としても活動の結果を残したい。フィリピンの人たちの役に立ちたい。そう強く願っています。

活動の結果については改めて報告したいと思います。それでは今回はこの辺で失礼します。



<国際課より>
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倉敷市はフィリピンで奮闘中の中原さんを応援しています。