フィリピン滞在記Vol.2

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フィリピン滞在記Vol.2

フィリピン滞在記 タイトル



JICA青年海外協力隊として、フィリピンで食用作物・稲作栽培の指導をしている中原稔(なかはら みのる)さんのレポートをお届けします。最終回となる第2弾は炭素循環農法による土作りの普及に関する活動について報告します。

 皆さんこんにちは。今回は活動の結果報告です。

 前回の文章で、任期を延長しようと思っているとお伝えしましたが、無事に6ヶ月間の任期延長が認められました。

稲作

 先ずは稲作の結果報告からさせて頂きます。稲作ではジャンボタニシを活用した除草法の普及に取り組んでいましたが、正直なところ普及までには至りませんでした。実験段階では上手く除草ができ、農民にも取り組んでもらえるものと期待していたのですが理解を得られませんでした。 ジャンボタニシ除草法は
1) 田んぼをなるべく均平にする
2) 畦をしっかり作り水を深く溜められるようにする
3) 田植え後田んぼから水を抜いた時に、水溜りが出来ないように田の中に排水用の溝を作る
4) 雑草の新芽が出揃った所で水を溜め、稲の成長に会わせて水位を調節する
 この4点が上手く除草を行う為のポイントに成りますが、フィリピンの農民にとっては面倒だったようです。最初の準備さえしっかりとしておけば除草はタニシがしてくれるので、自分達が田んぼに入って除草をするよりも断然楽なのですが、忙しい田植えの時期に仕事が増える事を嫌ったようです。私の情熱が足りなかったのだと思い反省しています。

野菜作り

 畑ではコンパニオンプランツ、自然農薬、木酢、堆肥作り、天恵緑汁などを試しましたが、害虫防除ではどれも目に見えて良い結果が出るものはありませんでした。生育促進の面では天恵緑汁が少し効果がありました。そんな中で私が並行して取り組んでいた「炭素循環農法」が土作り二年目で良い結果を得る事が出来ました。炭素循環農法とは簡単に言うと、土の中に大量の植物性有機物を投入し土の中の微生物を爆発的に増やし、植物と微生物の共存関係を作り上げる農法です。特徴は窒素などの肥料分は一切投入しない事です。そうすると植物は微生物から栄養をもらい、根から微生物の餌となる物質を出しお互いを助け合うのです。また、根の中に住みつく菌類もいます。菌根菌、根粒細菌などがそうですが、このような菌を植物共生細菌「エンドファイト」と呼びます。今、農業界で最も注目されている言葉です。

夢の農法

 さてこの炭素循環農法で栽培された野菜は驚く事に虫が食べに来ません。病気にも成りません。普通の野菜よりも大きく元気に育ちます。さらにとても美味しいのです。なぜこんな事が起こるのでしょうか。ひとつは微生物の力です。彼らは植物の成長に必要な微量元素を作り出し植物に与えていると考えられています。もう一つは肥料を与えないという事です。現代農法では肥料が無ければ植物は育たないと考えられていますが、それは事実ではありません。むしろ肥料は毒なのです。それを今から説明しましょう。

肥毒

 化学肥料には窒素、リン酸、カリという3大栄養素が高濃度で含まれています。その中の窒素は植物に吸収される時に硝酸態窒素というものに変化します。この硝酸態窒素が実は虫や病原菌の大好物なのです。さらに硝酸態窒素は野菜の灰汁(あく)やえぐみの元なのです。硝酸態窒素を一時に大量に摂取すると中毒症状を起こします。実際に硝酸態窒素を多く含む牧草を食べた牛が中毒で倒れた事例があります。ヨーロッパではすでに野菜中の硝酸態窒素の含有量の規制も始まっています。発癌性物質の疑いもあります。以上の理由から炭素循環農法で育った野菜はえぐみのないすっきりした味でとても美味しく、健康にもよいのです。

継続は力

 いいことずくめの炭素循環農法ですが大変なのは土作りです。毎作付けごとに1平方メートル当たり5~10kgの炭素資材(有機物)を投入して、土の表面と浅く混ぜなければいけません。家畜糞、米ぬかなどの窒素分を多く含む資材は使いません。良い土ができるのに早くて6カ月、遅くて2年掛かると言われています。その期間はいい作物が出来ないのです。だから農家さんは少しづつ炭素循環農法の畑を広げていくしかないのです。そして土が出来てからも微生物の餌である有機物を投入し続けなければなりません。ですからこの有機物の確保と諦めずに有機物を投入し続ける事が大きな課題となります。
 日本ではキノコの廃菌床や木材チップ、剪定枝チップ、竹チップ等が活用されています。フィリピンではそういったものは手に入りませんので、落ち葉、雑草、刈草、もみ殻、野菜残渣、バナナの葉などを使って積み込み堆肥を作って使っていました。積み込み堆肥とは有機物をただ積み上げて堆肥化したものです。フィリピンのような熱帯気候の地域では分解も早くとても適しています。手間もお金も掛からず簡単に出来ます。

積み込み堆肥の写真
グリーンマスタード1
グリーンマスタード2

セミナー開催

 こうして良い土を2年掛けて作り、私は虫に食べられないグリーンマスタードを作る事が出来ました。比較対象区を作りそちらには鶏糞堆肥をしっかりと混ぜましたが、虫にほとんど食べられてしまいました。この結果を見て炭素循環農法は本物だと確信した私は任期の最後にデモファーム(私の実験圃場)に農民を集めてセミナーを開き、この技術と概念を実践を交えて伝えました。勿論データも渡しました。実際に美しく育ったグリーンマスタードを見て農民たちは興味を持ってくれたようでした。出来ればその中からやる気のある人を選んで一緒に農作業をして、良い野菜が収穫できるまでフィリピンに居たかったのですが時間の関係でそれは叶いませんでした。後任の隊員が一日も早く決まって私の活動を引き継いでくれる事を祈るばかりです。しかし農民には、後任の隊員が来るのを待つのではなく自分の力でこの農法に挑戦してもらいたいと思います。

セミナーの写真

人生を切り開く

 ボランティアというと何かをしてあげるというイメージだと思いますが、我々青年海外協力隊の使命は、住民自らが考え、物事や事態を改善していく為のきっかけを作る事なのです。勿論直接的な援助もしますし技術も伝えますが、それだけでは彼らが援助に依存した生き方、考え方に陥ってしまいます。しかし我々は永遠に援助を続けられるわけではないのです。
 自立できない人間に人生を切り開いていくことは出来ません。なぜなら上手くいかない理由を、他人や環境といった自分以外の物のせいにしてしまうからです。全ての責任は己に在るんだという覚悟が無ければ成長する事は出来ませんし、幸せにもなれないでしょう。

種を播く

 私は一人でも多くのフィリピン人に炭素循環農法を伝えたいと思い、任地以外でもセミナーを開いたりやり方を教えたりしました。
「種を播かなければ芽は出ない。たった一粒の種でも芽を出し、花が咲けば、そこから種は無限に広がっていく。」
私の播いたほんのわずかな種から、たった一粒でも芽を出し花が咲いてくれたら嬉しいなあ。

指導の様子1
指導の様子2
指導の様子3

最後に

 協力隊の経験は私にとってかけがいの無いものです。活動中、私を支えて下さった日本とフィリピンの方々に心から感謝申し上げます。そして全ての日本国民の皆様からのご支援で協力隊活動が出来ました事に深く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。今後も日本と世界がより良い社会になる為に、農業を通じて社会貢献することで、ご恩返しをしたいと思います。何年後か分かりませんがフィリピンにも帰って農業技術を伝えたいと思っております。

 最後まで読んで頂きありがとうございました。


                 平成22年度2次隊  職種:食用作物・稲作栽培
                               中原 稔



<国際課より>
フィリピン滞在記を購読いただき,ありがとうございました。
中原さんのレポートを通して,フィリピンの人々や文化,生活などを知り,この国のことを身近に感じられるようになりました。また,JICA海外ボランティアの活動や暮らしについても垣間見ることができました。
倉敷市は2年半にわたりフィリピンを伝えていただいた中原さんに感謝申し上げるとともに,今後の中原さんのご活躍を応援しています。