倉敷市美観地区*バリアフリー整備計画 目 次 はじめに 第1章 美観地区の現状  1−1.美観地区の概要  1−2.美観地区の景観保全への取り組み  1−3.バリアフリー化の現状 第2章 バリアフリーの視点から見た美観地区の課題  2−1.美観地区バリアフリーワークショップの概要  2−2.障害別に見た美観地区の課題  2−3.施設別の課題と優先順位 第3章 高齢者、障害者のニーズと事業者の意識  3−1.アンケート調査の概要  3−2.高齢者の観光行動と美観地区へのニーズ  3−3.障害者の観光行動と美観地区へのニーズ  3−4.事業者のバリアフリー整備の現状と意識 第4章 美観地区バリアフリー整備の基本的考え方  4−1.整備目標  4−2.整備の基本的考え方 第5章 美観地区におけるバリアフリー整備事業の展開  5−1.対象者  5−2.実施体制  5−3.整備事業の考え方 第6章 美観地区バリアフリー整備事業  6−1.整備事業一覧  6−2.整備内容と実施にあたっての課題 おわりに−持続発展的な事業の推進に向けて   はじめに (1)背景  倉敷市をはじめ全国でバリアフリー整備が進みつつある中で、高齢者、障害者等が日常 生活の外出だけでなく、観光や娯楽等を目的とした非日常の外出行動も増加し、生活の質 (QOL)の向上が期待されます。  倉敷市では平成18年3月に交通バリアフリー法に基づく基本構想を策定し、その中で美 観地区周辺をバリアフリーの視点から総合的に検討を行う地区として位置づけました。   しかし、美観地区は歴史的景観を保全する伝統的建造物群保存地区に指定されている こともあり、バリアフリーに関する多くの課題があります。   そこで、多様な人々の視点を踏まえ、市民、事業者(観光、商業など)、行政が協働で ソフト、ハードの両面から総合的な対策を検討し、「美観地区バリアフリー整備計画」を策 定しました。 (基本理念) 「ひと、輝くまち 倉敷。」の理念に基づき、高齢者、身体障害者等だれもが安全、快適に 移動し、活動できるまちを目指す。 (美観地区の位置づけ)  美観地区は、倉敷駅周辺地区に含まれ、重点整備地区として位置づけられています。そ の中で、美観地区については、面的な空間としての魅力を維持していく必要があることか ら、地区内の単体施設を目的地とするのではなく、地区全体が主要な地区(エリア)とし て位置づけられています。 (2)目的  本計画は、美観地区を対象に「バリアフリー化」、「景観保全」、「観光まちづくり」の3 視点から、すべての人が安全に、安心して、楽しめるユニバーサルデザインによるまちづ くりの方向性を定めることを目的としています。  特に観光地におけるバリアフリー整備に関しては、全国的にはまだ取り組まれていない テーマであり、日本を代表する観光都市である美観地区において先行的に取り組む意義は 大きく、日本の歴史的景観を有する観光都市のモデルとなりうるものと考えています。 (3)検討経緯  本計画は、学識経験者、美観地区内の関係者、高齢者、障害者、観光施設関係者など様々 な方々の参加による「美観地区バリアフリー整備事業検討会」を5回開催し、策定しまし た。  また、多数の市民の参加による「アンケート調査」、「ワークショップ」も併行して実施 しており、その中で市民の意見を伺い,本計画に反映しています。  アンケート調査は、美観地区を訪れた高齢者、市内及び市外在住の障害者、美観地区内 の観光事業者を対象に調査を実施しました。高齢者、障害者の調査では、観光行動の実態 と美観地区へのニーズについて伺っています。また、事業者へのアンケート調査では、バ リアフリー化への取組みの現状と意識について伺っています。  ワークショップは、車いす使用者、視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者など様々な 障害当事者の方々をはじめ、高齢者、幼児連れ、外国人、美観地区内の事業者など多様な 市民が参加しました。特に,美観地区内の6施設に協力いただき、市民、事業者、行政が 一緒に観光の実体験を行い、バリアフリーの視点から見た美観地区の課題を抽出し、バリ アフリー化に向けた提案を多数いただきました。  このように本計画は、多様な市民、事業者からの意見、提案を踏まえ、市民、事業者、 行政がともに協議した結果を反映して策定しました。 第1章 美観地区の現状 1−1.美観地区の概要  美観地区は、江戸時代に天領として栄え、今も昔と変わらず倉敷川と土蔵造りの蔵、白 壁の町家の町並みが、美しい景観を形成しています。また、美しい町並みが保存されてい るだけでなく、日常の生活が息づいていることがまちの魅力となっています。  倉敷市の観光客数は、近年横ばい傾向にあり約650万人/年です。その中で、美観地区 は約300万人/年以上を占め、倉敷市の観光の拠点となっています。  美観地区には、大原美術館をはじめ倉敷民藝館、倉敷考古館、日本郷土玩具館など、文 化施設が多く立地しています。また、倉敷川畔や本町通りには蔵や町家など歴史的な建物 を活用した土産店や食事処が多数立地しています。 1−2.美観地区の景観保全への取り組み  倉敷市では、江戸期以来の伝統的な町並みの保全を図るため、昭和43年に独自条例の 「倉敷市伝統美観保存条例」を制定し、「倉敷川畔美観地区」を指定しました。  その後、昭和50年には、文化財保護法の一部改正が行われ、「伝統的建造物群保存地区」 制度が導入されたことから、昭和53年に、「倉敷市伝統的建造物群保存地区保存条例」を 制定し、国の重要な文化財の1つとして「重要伝統的建造物群保存地区」(「伝建地区」)に 選定されました。  また、平成12年には、伝建地区・伝美地区のエリアを対象にした建築基準法による条例 である「倉敷市美観地区景観条例」も制定しています。  当該地区では、建築行為等について規制を設け、住民や事業者の理解を得ながら、文化 的価値や景観の保全を図っています。 1−3.バリアフリー化の現状 (1) 道路空間   美観地区では、倉敷川畔が時間規制による歩行者自転車専用道路化されている他は、 歩車分離されていない道路で構成されています。   倉敷川畔は、コンクリートの洗い出し舗装で、概ね平坦性は確保されています。ただ し、石橋に段差があったり、樹木による路面の隆起があったり、倉敷川への転落の危険が あるなど、バリアフリーには対応できていません。   観光客の周遊・散策のコースとなっている本町通り等では、道路幅員が狭く、多くの 歩行者と自動車が通行し、歩行者が安全に歩ける空間になっているとはいえません。 (2) 観光案内所・トイレ・情報案内板   美観地区には、観光案内所は2か所あります。トイレは屋外の公衆トイレが3箇所、 公共施設内に2箇所あり、その内3箇所が多目的トイレとなっています。また、案内板は、 美観地区の入り口付近に3箇所設置されています。 (3) 主要施設   美観地区内に立地する宿泊施設2施設、文化観光施設3施設において現地確認、ヒア リング調査を実施しました。   その結果、入口や通路の段差解消に取り組まれている施設が多く、障害者の利用も多 くあるようです。ただし、歴史的な建物であることや、景観保全への配慮等により、ハー ド整備としてバリアフリー対応できていない部分が多く残っている状況です。 第2章 バリアフリーの視点から見た美観地区の課題 2−1.美観地区バリアフリーワークショップの概要 第1回ワークショップは、「様々な立場で観光してみよう」をテーマに実施しました。 実施日時は、平成19年9月2日(日)、13:00〜16:30。 主な実施内容は、様々な立場で観光を実体験(散策体験、施設見学体験、食事、おみやげ 店体験、宿泊体験)しました。参加者数は72名でした。 第2回ワークショップは、「すべての人が楽しめる美観地区にするには?〜来訪者の視点で 考えよう〜」をテーマに実施しました。 実施日時は、平成19年9月23日(日)9:30〜12:00。 主な実施内容は、第1回ワークショップの体験を踏まえて問題点の抽出、整備課題の優先 順位の検討、バリアフリー化に向けての整備方針の検討を行いました。参加者は45名で した。 2−2.障害別に見た美観地区の課題(第1回ワークショップの結果より) @ 車いす使用者 【主なバリア】 ○歴史的な建造物では、入口に段差、階段があるところが多く、自力での入場が困難なこ とが多い。 ○エレベーターを設置している建物が少なく、施設の2階以上を利用できない場合が多い。 ○多目的トイレが少なく、一般用トイレも出入り口の幅が狭いため、車いす使用者が利用 できるトイレが少ない。また、その情報提供が十分ではない(案内板に掲示されていない) ため、利用しにくい状況である。 ○目線が低いため、展示品の見学やお土産物の購入、サインの確認などにおいて制約があ る。また、車いすが入る蹴込み(奥行き)がないため接近できないことが多い。 ○路面の凹凸による振動や狭い道路では安全・安心な通行が難しい。 【主な課題】 ○車いす使用者の観光行動範囲の拡大が必要である。 ○トイレ設備、情報の充実が必要である。 ○車いす使用者の高さ等に配慮した配置等が必要である。 ○安全に安心して周遊できる空間づくりが必要である。 A 視覚障害者 【主なバリア】 ○視覚障害者への支援設備(点字ブロック、音声案内等)が整っていないため、全盲者は 介助なしで観光することは難しい。 ○倉敷川への転落の危険がある。 ○施設内の段差、突起物等への注意喚起が不足しているため、移動に不安がある。 ○点字情報や音声情報が不足しているため、施設見学や食事、おみやげ購入などで困るこ とがある。 ○視覚障害者への対応について理解が十分ではないと感じることがある。(対応に慣れてい ない) ○歩車分離がされていないために移動に不安を感じることがある。 【主な課題】 ○視覚障害者への配慮が特に未整備である。 ○倉敷川への転落防止、突起物等への注意喚起など安全対策が必要である。 ○情報提供(点字情報、音声情報など)の充実が必要である。 ○ハード整備でカバーできない部分をソフトでカバーする仕組みが必要である。 B 聴覚障害者 【主なバリア】 ○聴覚に障害があると気付かれにくい。 ○聴覚障害への認知が低いため、筆談などの申し出がしにくい。 ○後ろからくる自転車、自動車に気づきにくいため、歩車分離されていない道路では通行 に不安を感じることがある。 ○聴覚障害者への対応について理解が十分でないと感じることがある。(対応に慣れていな い) 【主な課題】 ○聴覚障害者に対するソフト面での配慮が遅れている。 ○聴覚障害への配慮事項を周知広報する必要がある。 ○聴覚障害者も安心して散策できるように、歩行者優先の道路整備が必要である。 C その他障害者 【主なバリア】 ○段差や路面の凹凸があり、つまずくことがある。 ○疲れやすい人が多く、散策途中に休憩できるスペースが少ない。 ○手すりの整備が不十分で、階段やスロープの移動が困難なところが多い。 ○ドアノブや洗面の蛇口などに使いにくいものがある。 ○オストメイト対応のトイレが少ない。 ○その他障害者への対応について理解が十分でないと感じることがある。 【主な課題】 ○つまずきにくく、疲れにくい歩行空間の整備が必要である。 ○散策が楽しめるよう、休憩できるスペースの確保が必要である。 ○手すりや使いやすい設備の整備の推進が必要である。 ○オストメイト対応のトイレを増やしていく必要がある。 ○その他障害者への理解の促進を図る必要がある。 D 高齢者 【主なバリア】 ○細かな段差や路面に凹凸があり、つまずくことがある。 ○疲れやすい人が多く、散策途中に休憩できるスペースが少ない。 ○手すりの整備が不十分で、階段やスロープの移動が困難なところが多い。 【主な課題】 ○つまずきにくく、疲れにくい歩行空間の整備が必要である。 ○散策が楽しめるよう、休憩できるスペースの確保が必要である。 ○手すりの整備が必要である。 E 幼児連れ 【主なバリア】 ○段差、階段が多く、ベビーカーでの移動が困難なところが多い。 ○階段部での介助や、混雑時のエレベーターの利用は申し出にくい。○オムツ交換台が少 なく、授乳できる空間がない。 ○路面の凹凸がベビーカーに振動し、移動が困難なところが多い。 ○文化施設の幼児連れの見学は気を使う。(他の人に迷惑がかかる) 【主な課題】 ○ベビーカーの利用も可能なスロープ、エレベーター等の整備推進が必要である。 ○オムツ交換台、授乳室等の確保が必要である。 ○幼児連れや妊産婦への配慮、理解への促進を図る必要がある。 ○平坦性を確保した歩行空間の整備が必要である。 F 外国人 【主なバリア】 ○ローマ字、英語等の表記が少ない。 ○倉敷の歴史、文化を楽しめる情報提供が少ない。 【主な課題】 ○主な案内板等では多言語表示が必要である。 ○ホームページ、ガイドブック等で情報発信の充実を図る必要がある。 ○多様な情報提供手段(PDAなど)の導入検討が必要である。 2−3.施設別の課題と優先順位(第1、2回ワークショップのまとめより) □各施設共通して、「トイレ」に関する課題があり、取り組み優先順位が高くなっています。 □各施設共通して、「おもてなし」の重要性が指摘されています。 □美観地区で観光を楽しむために、最低限必要なバリアフリー整備(例えば、安全に歩行 できる、施設に入れるなど)について、取り組む必要性が指摘されています。 □バリアフリーに関する情報提供、発信の大切さが指摘されています。 □ハードでできないところは、ソフトでカバーすることの重要性が指摘されています。 施設別の優先順位 @公共空間(外部空間) 1位 トイレを充実する(数が少ないから) 2位 歩行空間を確保する(観光するときに最初に通るところだから) 2位 歩行環境を改善する(中橋の段差の改善が必要だから) 3位 倉敷川への転落防止対策を行う(夜間照明を楽しむためにも、安全対策が必要) 3位 まちなみ散策を楽しむ工夫をする(ゆっくり見て回りたいから) 4位 案内を充実する(多言語表示や夜間の見やすさへの配慮が必要) 5位 視覚障害者への経路案内を行う(点字ブロックではなく、介助者の充実) 5位 自転車対策を行う(通行の妨げとなるので) 6位 休憩施設を充実するその他 おもてなしの心を示す。駅から美観地区の中間点にト イレ整備が必要。 A案内所、休憩所 1位 案内所、休憩所のトイレを充実する(使いにくいので) 2位 バリアフリーに関する現地案内を充実する(マップが必要。危険個所の情報など) 3位 休憩機能を充実する 4位 バリアフリーに関する事前情報を充実する(事前に利用できるところ、利用できな いところを知っておくと楽しみ方を考えることができる) 5位 倉敷館の新たな活用を考える 5位 新渓園のバリアフリー化を推進する(車いすでも通行できるように) 5位 観光駐車場のバリアフリー化を推進する(地下駐車場の利用にエレベーターが必要) B文化観光施設 1位 すべての人が入場できるようにする(入口でバリアがあっては見学できないから) 2位 トイレを充実する(使いやすいトイレが少ないから) 3位 館内の段差を改善する(見学経路に沿って、エレベーターがあると見学しやすい) 3位 経路案内を充実する(段差やスロープの位置がわかりにくい) 4位 スムーズにチケットが購入できるよう配慮する(筆談ができるようにしてほしい) 4位 解説板等を改善する(触れて見学できるようにしてほしい) 5位 多様な見学ができるようにする その他 入口に障害者の方のためのインターホンを設置するとよい C商業施設 1位 おもてなしの心を表す(一言の声かけでまちの印象が違う) 1位 サポート体制を充実する(ハードでできないことをソフトで対応する) 2位 すべての人が入場できるようにする(渡し板のようなものを準備するとよい) 3位  備品をバリアフリー化する(机や椅子など、どういったものが使い易いか知っておくと、 更新時に改善できる) 3位  バリアフリー情報の発信(事前に情報がわかることで“それなりに”楽しむことができる) 4位 店舗をバリアフリー化する他(知っていたら、できることがたくさんある) D宿泊施設 1位 おもてなしの心を表す(人と人のつながりが大事だから) 2位 サポート体制の充実 2位 バリアフリー情報の発信(障害者の視点からの情報が必要) 3位 すべての人が入場できるようにする 3位 多目的トイレを整備する(車いすに限らず、みんなが使いやすいトイレが必要) 3位 バリアフリー対応の部屋を確保する(イメージアップになるから) 4位 備品をバリアフリー化する(振動目覚ましがあると利用しやすい) 第3章 高齢者、障害者のニーズと事業者の意識 3−1.アンケート調査の概要  観光行動の実態と美観地区へのニーズを把握するため、高齢者、障害者を対象にアンケ ート調査を実施しました。また、美観地区内の観光関連の事業者を対象にバリアフリー整 備の現状と意識についてアンケート調査を実施しました。実施概要は以下のとおりです。 @高齢者アンケート 実施日 平成19年8月30日(木) 実施方法 調査員によるヒアリング(観光案内所、休憩所) 回収数 51票 質問項目 □観光を目的とした旅行の経験について □旅行の情報収集について □美観地区での観光経験について □美観地区での観光ニーズについて □美観地区のバリアフリー整備について A障害者アンケート 実施日 平成19年8月27日(水)〜9月10日(月) 実施方法 障害者団体を通じて配布、郵送回収 配布数 141票、回収数 90票(回収率:64%) (内訳)視覚障害者27票、聴覚・言語障害10票、車いす使用者11票等 質問項目 □観光を目的とした旅行の経験について □旅行の情報収集について □美観地区での観光経験について □美観地区での観光ニーズについて □ 美観地区のバリアフリー整備について B事業者アンケート 実施日 平成19年8月30日(木)(回収期間〜9月10日) 実施方法 調査員によるポスティング、郵送回収 配布数 100票 回収数 58票(回収率:58%) 質問項目 □バリアフリー整備状況について(障害者の利用状況、整備状況) □バリアフリーに対する意識 □店舗、施設のバリアフリー化への取り組み意向 3−2.高齢者の観光行動と美観地区へのニーズ (1)高齢者の観光行動 □回答者は、市内在住者が約30%、市外在住者が約70%であり、市外の居住地は、近畿圏 が最も多く約40%を占め、中国(岡山を除く)が次に多い状況です。 □70歳以上が半数以上を占めています。 □1年間の観光旅行の回数は、「2〜3回」が最も多く約40%を占めています。 □最も多い人が30回/年で、全体の平均回数は4.4回/年です。 □約80%の人が事前に情報収集しており、その方法 は「ガイドブックなどの書籍やパン フレット」が約65%と最も高く、「インターネット」は、約25%です。 (2)美観地区のバリアフリー整備について 【外の移動について】 □ 相対的に満足度が高く、整備の必要性を感じている人は約半数です。 □「道路の凹凸や段差の解消」が最もニーズが高くなっています。  【主な観光施設内(美術館や博物館)について】 □ 相対的に満足度が高く、整備の必要性を感じている人は約半数です。 □「出入り口の段差の解消」、「スロープやエレベーターの整備」の順にニーズが高くなっ ています。 【商業施設・宿泊施設内について】 □外の移動、主な観光施設と比較して、相対的に整備ニーズが高い傾向にあります。 □「出入り口の段差の解消」、「トイレ、階段等への手すりの整備」、「店員の丁寧な対応、 介助の充実」の順にニーズが高くなっています。 3−3.障害者の観光行動と美観地区へのニーズ (1)回答者の属性と日常の外出行動 □回答者は、市内在住者が約48%、市外在住者が約52%でした。年齢構成は、50歳代(約 20%)が最も多く、30〜70歳で構成されています。 □障害種別は、肢体障害(下肢)が最も多く、次いで、視覚障害者、肢体障害(上肢)の 順に多くなっています。 □回答者の約80%の人が一人で外出できると回答しています。 □車いす使用者、その他障害(内部障害、知的障害、精神障害等)の方は、介助を必要と する割合が高くなっています。 (2)障害者の観光行動 □全体では約90%以上の人が観光旅行の経験がある。障害別では車いす使用者が約70%と 少し低くなる傾向にあります。年間の旅行回数は、2〜3回/年が約40%でも最も多くな っています。 □約80%の人が事前に情報収集しており、その方法は「インターネット」、「ガイドブック などの書籍やパンフレット」が約60%と高く、障害者のインターネットの利用率は高い傾 向にあります。 □障害別では、視覚障害者の情報収集が少し低い傾向にあり、手段においても「知人に聞 く」割合が高いなど、情報を入手できる手段が限られていると言えます。 (3)美観地区での経験とニーズ □約90%以上の人が美観地区を訪れた経験がありますが、再度、来訪するニーズは減少す る傾向にあります。 □車いす使用者、視覚障害者は「歴史的な建物や美術品などを見学する」経験が低い傾向 にあり、その反面でニーズは高くなります。 □視覚障害者以外は、「まちを散策、周遊する」ことへの潜在ニーズ(ニーズ−経験)があ るといえます。 (4)美観地区のバリアフリー整備  @外の移動のバリアフリー整備 □すべての項目について、約80%以上の人が必要だと感じています。□障害別では、車い す使用者、肢体不自由者(下肢)が「トイレの位置やバリアフリー経路など案内情報の充 実」についてニーズが高い傾向にあります。 □視覚障害者は、「観光ボランティア等、人による経路案内の充実」について最もニーズが 高い傾向にあります。 A主な観光施設(美術館や博物館等)内のバリアフリー整備 □車いす使用者は「出入り口の段差等の解消」、肢体不自由者(下肢)は「トイレ、階段等 への手すりの整備」についてニーズが高い傾向にあります。 □視覚障害者は、「トイレの視覚障害者対応」、「音声等による展示品の解説等の充実」に対 するニーズが高い傾向にあります。 B主な商業・宿泊施設内でのバリアフリー整備 □「トイレ、階段等への手すりの整備」、「車いす対応型トイレの整備」についてニーズが 高い傾向にあります。 □車いす使用者は「スロープやエレベーターの整備」、「車いす対応型客室の設置」につい てニーズが高い傾向にあります。 □視覚障害者は「店員のていねいな対応、介助の充実」に対するニーズが高い傾向にあり ます。 3−4.事業者のバリアフリー整備の現状と意識  美観地区内の飲食店、みやげもの店、宿泊施設、文化施設等100か所にアンケート調 査を実施しました。飲食店(16件)、みやげもの店(21件)、宿泊施設(5件)、文化施 設(5件)、その他(11件)の合計58施設より回答を得ました。  アンケートでは、各施設でのバリアフリー整備への取組みの現状と今後の取組み意向に ついて伺いました。 (1)事業者の現状 □年間10人以上50人未満の障害者の来訪がある店舗、施設が多く、90%以上の店舗・施 設で車いす使用者の来訪があります。 □入口の段差解消や幅の広い通路の確保に取り組んでいる店舗は多いが、トイレの整備等 に取り組んでいる店舗・施設は少ない状況です。 □飲食店、宿泊施設では移動の介助を行っている割合が高いが、介助犬同伴可の表示や筆 談対応などに取り組んでいる店舗・施設は少なく、バリアフリーに関する情報発信もあま り行われていません。 (2)バリアフリー化への取り組み意向 □ハード整備では、各施設で共通して、入口の段差解消に取り組む意向は高く、宿泊施設 では手すりの設置、車いす利用可能なトイレの設置、点字ブロックの整備などに取り組み 意向があります。文化施設では、展示品の説明について取り組み意向があります。 □ソフトの取り組みでは、「店舗・施設内移動の介助」、「従業員の介助マナーの向上」につ いて取り組み意向が高く、「補助犬同伴の表示」については、飲食店で約40%、みやげも の店で約30%の取り組み意向があります。一方、「トイレの開放」、「点字資料の設置」に ついては取り組み意向が低い傾向にあります。 □取り組みにあたっての必要な支援としては、「整備に対する補助金」、「他施設の取り組み の情報提供」に関してニーズが高くなっています。 第4章 美観地区バリアフリー整備の基本的考え方 美観地区の現状と課題ならびに高齢者、障害者等の美観地区へのニーズを踏まえて、美観 地区におけるバリアフリー整備の基本的考え方を整理します。 4−1.整備目標  美しい町なみ、歴史的な建物、人々が継承してきた文化は、人の五感を通じて、様々な かたちで楽しむことができます。  美観地区では、景観の保全、観光の振興との調和を図りながら、すべての人が倉敷を訪 れたいと感じ、楽しみ、よい思い出づくりができるよう、また、そこで住む人々が快適に 生活できるよう、バリアフリー化を進めていきます。  バリアフリー整備を推進することにより、美観地区を訪れる人、楽しむ時間、人々の笑 顔が増え、美観地区の新たな文化、魅力を発信し、更なる地域価値の向上をめざします。  このようなことから、整備目標を次のように定めます。  「歴史、文化、人々の心の美しさを五感で感じるまちづくり」  五感で感じるとは・・・  「見る」  歴史的な美しいまちなみを見て楽しむ。人々の営みを見て楽しむ。  「聴く」  倉敷の歴史、文化を聴いて楽しむ。店舗の賑わいを聴いて楽しむ。   人々との会話を楽しむ。  「触れる」 歴史的な建物などに触れて楽しむ。人々とのふれあいを楽しむ。  「味わう」 倉敷の四季折々の味覚を味わう。  「かぐ[a1]」  季節、時間によって変化する“まちの香り”を楽しむ。 4−2.整備の基本的考え方  整備目標を実現するために、バリアフリー化に取り組む考え方を、「おもてなしの心」、 「歴史・文化」、「歴史的な建物」、「観光基盤」、「社会基盤」の5つの視点から整理します。 (1)何度でも訪れたくなるような“おもてなし”の充実  高齢者や障害者へのアンケート結果では、多く人が美観地区に訪れた経験がある中で、 再度、訪れようと思うニーズは低下する傾向にあります。  また、景観保全等の理由からハード整備では解決が難しいバリアがたくさんある中で、 視覚障害者をはじめ多くの障害者が、人によるサポートを重要視しています。ワークショ ップでも、「おもてなし」の心が大切であり、感謝の心やサポートできることを示す取り組 みやしくみ、体制が必要だと指摘されています。  「おもてなし」を示す手段の一つとして、情報発信が重要になります。特に障害者は来 訪前に事前情報を収集している人が多く、事前情報の有無が、来訪時の快適性を左右する 大きな要因の一つと考えられます。  このため、一人ひとりの心がけ、互いに協力しあう体制づくり、適切な情報発信をあわ せて取り組んでいくことが重要です。 (2)美観地区の歴史、文化を楽しむためのバリアフリー整備の促進推進  多くの来訪者は、美観地区の美しいまちなみ、歴史、文化を楽しむために訪れています。 しかし、現状では歴史、や文化を伝えるための案内板が少なかったり、視覚障害者や聴覚 障害者など情報障害がある方への配慮が足らなかったりと、必ずしもすべての人が楽しめ るような状況であるとは言いきれません。このため、アンケート結果では、車いす使用者 や視覚障害者などは、歴史的な建物や美術品などを見たり、触ったり、説明を聞いたりす ることを楽しみたいというニーズが高くなっています。  また、美観地区の歴史、文化を楽しむためには、長時間滞在し地区を周遊することが必 要です。このため、サインやトイレ、休憩所などのバリアフリー化が重要になります。で す。しかし、ワークショップ等では「トイレが少ない」、「施設の位置がわかりにくい」、「休 憩所に潤いがない」など、たくさんの問題点が指摘されました。すべての人が、まちの歴 史、文化をゆったりと楽しむために、情報案内、休憩機能等の整備を推進促進していく必 要があります。 (3)歴史的な建物の構造を考慮したバリアフリー整備の推進促進  美観地区では、歴史的な建物を利用した文化施設や商業施設が、まちの魅力となってい ます。しかし、これらの施設では、出入り口に石段があったり、敷居があったり、幅が狭 かったりと、バリアとなる要素がたくさんあります。  しかし、多くの様々な障害者が、美観地区内で施設を見学したり、食事をしたり、買い 物をしたりと観光を楽しみたいと感じています。このため、一部の施設では、建物の構造 を変更しない範囲でスロープを設置したり、裏口を解放したりと様々な工夫が行われてい ます。また、列車の乗り込みに利用する渡し板のようなもの(ポータブルスロープ)を設 置するなどソフト面での対応の方法もワークショップで提案されました。  このように、歴史的な建物の構造を考慮しながら、バリアフリー整備を促進推進してい くことが重要です。 (4)観光地として必要な機能のバリアフリー化の促進推進  美観地区は年間300万人以上もの観光客が訪れる国内有数の観光都市です。しかし、地 下駐車場にはエレベーターがなく利用が不便であったり、バリアフリー対応の宿泊できる 部屋が少なかったりと、観光地として基本的な機能のバリアフリー化が遅れています。  また、車いす使用者をはじめすべての来訪者にとって、トイレは重要な要素となってい ます。しかし、「利用できるトイレが少ない」、「場所がわからない」、「使いにくい」など、 多く数の問題点が指摘されています。  全国的にみても歴史的な観光地ではバリアフリー化が遅れていますが、その中で、先導 的な取り組みを行い、代表的な観光地にふさわしいバリアフリー化を推進促進していく必 要があります。 (5)景観の保全と調和のとれた社会基盤のバリアフリー整備の推進  美観地区では、その歴史、と文化を後世に継承するため、建築物等の保存、景観の保全 が行われています。そのため、現状の変更が難しいことから、倉敷川畔沿いでは、倉敷川 への転落防止や中橋の段差、新渓園の出入り口の段差など、整備が遅れているところがあ ります。  本町、東町の裏通りは、狭いい道幅で、緩やかにカーブし、沿道の歴史的な建物との一 体性が、昔のまちなみを体感できる重要な空間となっています。しかし、たくさんの自動 車が通行するため、来訪者は安全に安心して、まちなみを楽しむことが難しく、そこに住 む生活者にとっても危険な状況となっています。  一方で、美観地区の景観の変遷をたどると、歴史的な建築物等はその文化的価値から、 そのまま継承されていますが、道路や河川といった社会基盤は、時代のニーズに応じて使 われ方が変化し、その景観もよりよいものへと変化し続けています。  また、岡山県内在住の障害者のほとんどが美観地区を訪れた経験があり、また、地区内 の多くの施設にもたくさんの障害者が訪れています。今後、高齢化社会が進行する中で、 美観地区を訪れる高齢者や障害者方々は、ますます増えていくことが予想されます。  このため、すべての人が美観地区を楽しめるように、景観の保全に配慮しつつも、安全、 安心を確保するため、社会基盤(道路等)のバリアフリー整備を推進していかなくてはな りません。 第5章 美観地区におけるバリアフリー整備事業の展開  整備目標の実現に向けて、5つの基本的考え方に基づき、具体的な事業を展開していく 必要があります。事業を展開するにあたり、対象者、実施体制、事業の考え方について整 理します。 5−1.対象者  整備の対象者は、すべての市民及び美観地区を訪れるすべての来訪者を対象とします。  すべての人とは、高齢者、障害者をはじめ外国人、妊婦や幼児連れ(ベビーカーなど) 方、子ども、健常者などです。 5−2.実施体制  本計画の策定にあたっては、高齢者や障害者など様々な市民と美観地区内の事業者の 方々から多数の意見や提案をいただき、市民、事業者、行政が協働で検討してきました。 立場の異なる三者が連携し、協働することで、多様な視点が加わり、相乗効果があること が確認できました。  整備目標として掲げた「歴史、文化、人々の心の美しさを五感で感じるまちづくり」の 実現に向けて、今後、更なる市民、事業者、行政の三者の連携・協働が必要不可欠である といえます。  特に事業の推進にあたっては、市民、事業者の方々の理解と協力が欠かせません。また、 市民、事業者、行政が、それぞれに主体となった事業を,三者がお互いに連携・協働し、 取り組んでいくことが重要です。そのためには役割分担を明確にし、互いの協力体制を構 築できるようなしくみを整えていく必要があります。  (各主体の役割と連携のあり方) @市民 美観地区のバリアフリー化について理解し、ボランティアガイドの取り組みをはじめ、声 かけ、介助のお手伝いなど、“おもてなし”を中心に役割を担います。また、事業者、行政 等が実施する整備事業を理解し、協力します。 A事業者 美観地区のバリアフリー化について理解し、管理施設や備品などのバリアフリー整備につ いて取り組んでいきます。また、声かけ、介助など“おもてなし”を行っていきます。ま た、市民、行政が実施するバリアフリー整備事業を理解し、協力します。 B行政 美観地区のバリアフリー化の必要性について広報、啓発を行い、公共空間のバリアフリー 整備を推進します。また、市民、事業者が実施する事業について、適切な情報や技術の提 供など支援していきます。また、市民、事業者、行政の事業間の連携が図れるよう調整役 を務めます。 5−3.整備事業の考え方  事業の実施にあたっては、整備の基本的考え方に掲げたように「景観保全」、「地域特性」 への配慮が必要であり、整備事業の絞り込み(重点化)ならびにハードとソフトの連携が 欠かせません。  このようなことから、次の4視点から具体的な事業を考えていきます。 (1)検討の視点 @ バリアフリー化を先行する範囲、経路、施設について  美観地区のすべてをバリアフリー化していくことが望まれますが、景観保全との調和、 技術的課題、資金面などを考慮すると段階的に取り組んでいくことが必要です。      このため、バリアフリー整備に先行して取り組む範囲と経路、施設を設定し、順次、取 り組みを広げていくこととします。 バリアフリー化を先行する範囲、経路、施設は次の通りです。 ◆バリアフリー化推進範囲  美観地区を中心に、周遊・散策に利用される道路を含む、明確に区分できる範囲。 ◆バリアフリー化先行範囲  美観地区の中で、モデル的に先行してバリアフリー化を図る範囲。 ◆バリアフリー化主要経路  美観地区の散策、周遊の中心的な動線であり、バリアフリー化を先行的に取り組む経路。 ◆バリアフリー化関連経路  関連事業と連携し、バリアフリー化を先行的に取り組む経路。 ◆バリアフリー化主要施設  バリアフリー化推進範囲内にある不特定多数が利用する施設。 A 観光行動からバリアフリー化する設備等について  美観地区は、全国有数の中四国を代表する観光地であることから、来訪者の観光行動を 基本にバリアフリー化する設備等を考えていきます。  また、様々な観光行動の中で、ワークショップにおける市民(利用者)の意見を参考に、 特に配慮が必要な設備等を考えていきます。 B ハードとソフトの役割分担について  美観地区は、倉敷の歴史、と文化が美しい景観として継承されている地区です。その歴 史、文化的価値を活用した観光地であることから、ハード整備では景観との調和、配慮が 必要となります。また、文化的価値の保全を図るため、バリアフリー化に制約、限界があ る場合もがあります。  このため、バリアフリー化を促進推進するにあたっては、ハード整備で対応すべき範囲、 レベルを考慮し、ハード整備では対応できない部分をソフトで充足するように考えていき ます。 C 多様な人への配慮について  車いす使用者、視覚障害者、聴覚障害者をはじめ、下肢・上肢不自由者、知的障害者、 精神障害者など、様々な障害等特性への配慮が必要になります。また、外国人や妊婦、幼 児連れ(ベビーカー)、子どもなどへの配慮も重要です。  事業の実施にあたっては、人の多様性を考慮してバリアフリー化について考えていきま す。 (2)バリアフリー化を優先するもの @バリアフリー化推進範囲  バリアフリー化を推進する範囲は美観地区を中心に、周遊・散策に利用される道路を含 む明確に区分される範囲とします。 Aバリアフリー化先行範囲と主要経路  バリアフリー化を先行して取り組む範囲は、美観地区内の主要な観光関連施設を含み、 主要経路との一体性、連続性を確保すべき面的な範囲とします。  また、主要経路は美観地区の歴史、文化を感じることのできる周遊・散策コースの中で、 ボランティア観光ガイド定期便に指定されているコースを基本に位置づけます。美観地区 の顔であり、夜間照明を実施している倉敷川畔沿いと周遊・散策の新たな魅力となってい る本町通り、アイビースクエア界隈を周遊できる経路を位置づけます。  美観地区入口(駅からの動線で主な入口)、観光案内所を結ぶ経路を位置づけます。また、 主要経路に位置づけている本町通りの延伸部で、関連事業(電線類等地中化事業)と連携 し、先行してバリアフリー化に着手できる経路を関連経路して位置づけます。   Bバリアフリー化主要施設  バリアフリー化を促進すべき主要施設は、バリアフリー化推進範囲内にある不特定の多 数の人が利用する美術館などの文化施設、宿泊施設、商業施設、観光案内所、駐車場、ト イレ等を対象としいきます。  これらの施設では、出入り口の段差解消をはじめ、幅の広い通路の確保、施設内通路の 段差解消などハード整備をできることから促進推進していく必要があります。しかし、建 物の歴史的、文化的価値の保全や景観の保全等の理由により、改修改築等が困難な場合は、 簡易スロープ(ポータブルスロープ)の設置や人による介助など、ソフトでの対応を充実 させていくことも重要必要です。  全国的にみても、美観地区のような多くの施設を占める歴史的な建物が多い地区でのバ リアフリー化は、のバリアフリー化は、全国的にみても取り組みが遅れています。このた め、新たな技術や様々な試行的な取り組みもが必要となるため、それらの情報収集、発信 も重要だといえます。 Cバリアフリー化の優先するもの ◆ソフト事業について  ワークショップ等では、各施設に共通して“おもてなしの心を表す”、“サポート体制を 充実する”など、ソフト事業の重要性が指摘されました。また、景観保全との調和を図り ながらバリアフリー化に取り組むためには、ハード事業ではできないところは、ソフト事 業でカバーすることも必要不可欠となっています。   このため、ソフト事業については最優先とし、推進範囲全域において第T期(3年以 内に着手するもの)に取り組んでいきます。ソフト事業の取り組みは、継続性を確保する ことが重要となるため、取り組み体制やしくみについても整えていきます。 ◆ハード事業について  本計画の調査では、道路、トイレ、観光案内所、観光文化施設、宿泊施設、商業施設な ど多様な施設において、様々なバリアフリー化に取り組まなくてはならないことが確認で きました。  すべての施設ですべての事業を一度に取り組むことは難しいため、観光の基本的な行動 とバリアフリー化を先行すべき範囲、経路、施設の2点から、優先して取り組むべき事業 の抽出を行い、第T期(3年以内に着手するもの)、第U期(5年以内の着手をめざすもの) に分類し、段階的に取り組みます。  ワークショップやアンケート調査結果を基に、観光の基本的な行動について,次の8つ に分類しています。特にバリアフリー化の必要性が高い行動として「周遊・散策する」、「憩 う」、「施設に入る(入口)」、「トイレを使う」、「情報を得る」を主行動としました。バリア フリー化先行範囲内の主行動については、優先的に取り組むこととし、第T期を基本に取 り組みます。  また、先行範囲外の施設においても、長期的にバリアフリー化を推進し、推進範囲全域 のバリアフリー化をめざしていきます。 第6章 美観地区バリアフリー整備事業 6−1.整備事業一覧 (1)観光の主行動に対するバリアフリー化事業 @周遊・散策する(だれもが安全に安心して、周遊・散策できる) 1.景観保全と調和した倉敷川への転落防止への試行的整備 倉敷市 2.バリアフリーモデルルートの整備(路面の凹凸、中橋の段差の改善など) 倉敷市 3.新渓園の周遊・散策ルートの充実 倉敷市、施設管理者 4.電線類地中化等による歩行空間の確保 倉敷市 5.交通規制等による歩車共存道路化への取組み 倉敷市 6.既存サインの改善(文字の大きさ、多言語表記など) 倉敷市 7.新しい誘導案内システムの導入検討 倉敷市 8.観光介助ボランティア制度の導入 倉敷市、倉敷ボランティア協会 A憩う(だれもが自分のペースで周遊・散策できる。) 9.観光案内所の機能充実(倉敷館の新たな活用、バリアフリー化の検討) 倉敷市 10.休憩場所(ベンチ)の増設 倉敷市、施設管理者 B施設に入る(だれもが施設にスムーズに入れる。おもてなしの心が伝わる。) 11.入口の段差解消(スロープの設置など)施設管理者 12.伝統的建造物群を構成している建築物については、ポータブルスロープの設置    施設管理者 13.補助犬同伴可ステッカーの掲示 (社)倉敷観光コンベンションビューロー、施設管理者 14.(仮称)ウエルカムステッカーの掲示(筆談、介助などの対応可能なことを示す)   (社)倉敷観光コンベンションビューロー、施設管理者 Cトイレを使う(だれもが安全、快適にトイレを利用できる。) 15.多目的トイレの機能の充実(オストメイト対応、視覚障害者対応など) 倉敷市 16.既存トイレのバリアフリー化(入口段差解消、洋式トイレの設置、手すりの設置など) 倉敷市、施設管理者 17.(仮称)おもてなしトイレ制度の導入民間トイレの開放) (社)倉敷観光コンベンションビューロー、施設管理者 D情報を得る(だれもが事前に美観地区の情報を知ることができる) 18.ホームページによる事前情報提供の充実 倉敷市 19.(仮称)おもてなしマップの作成(バリアフリー情報、バリア情報の提供)   倉敷市、(社)倉敷観光コンベンションビューロー 20.(仮称)まちなみ解説板の整備(倉敷の歴史や文化、景観などについて、文字や音声で 提供するもの) 倉敷市、(社)倉敷観光コンベンションビューロー 21.観光ボランティアガイドの充実 倉敷ボランティア協会、(社)倉敷観光コンベンションビューロ (2)その他の観光行動に関するバリアフリー化事業(ただし、入口、トイレについては (1)に準拠する) @宿泊する(だれもが安全、快適に宿泊できる。おもてなしの心が伝わる。) 22.バリアフリー対応の宿泊部屋の整備 施設管理者 23.通路等の改修 施設管理者 24.緊急時のバリアフリー対応(非常時の伝達方法、避難経路誘導など) 施設管理者 25.備品(机、椅子など)等のバリアフリー対応 施設管理者 26.おもてなしの充実(声かけ、介助など)施設管理者 A食事をする(だれもが安全、快適に食事を楽しめる。おもてなしの心が伝わる) 27.通路等の改修 施設管理者 28.備品(机、椅子など)等のバリアフリー対応 施設管理者 29.車いす使用者等優先席の表示 (社)倉敷観光コンベンションビューロー、施設管理者 30.点字メニューの設置 倉敷市、施設管理者 31.おもてなしの充実(声かけ、介助など)施設管理者 B購入する(だれもが安全、快適に買い物を楽しめる。おもてなしの心が伝わる。) 32.通路等の改修 施設管理者 33.おもてなしの充実(声かけ、介助など)施設管理者 (3)その他事業(バリアフリー化を促進するための支援事業) 34.おもてなし講習会(介助マナーなど)の実施 (社)倉敷観光コンベンションビューロー 35.観光地におけるバリアフリー整備事例集の作成(宿泊施設、商業施設等におけるバリア フリー整備の取り組み紹介ならびに技術紹介)倉敷市、(社)倉敷観光コンベンションビューロー 36.新築、改修、改善時のバリアフリー化に対するアドバイス 倉敷市37.美観地区バリア フリー整備計画の進捗管理・事後評価 倉敷市 6−2.整備内容と実施にあたっての課題 (1) 周遊散策する 1.景観保全と調和した倉敷川への転落防止への試行的整備 第U期  美観地区での周遊散策コースの中心となる倉敷川畔は、川への転落の可能性があり、視 覚障害者等は安心して周遊することができない状況です。転落防止は、車いす使用者、ベ ビーカーにとっても必要であり、夜間時には健常者にとっても必要です。既に川へおりる 階段部など一部では、転落の防止を兼ねて、フラワーポットやベンチが設置されています。  すべての人が倉敷川畔を安全に安心して楽しむためには、景観との調和を図りながら転 落防止の方法を考えていく必要があります。  対策には、路肩にブロックやベンチ、フラワーポットなど何かを設置する方法の他、視 覚障害者誘導用ブロックのように舗装材による路肩の強調、センサーなどを活用した音声 による警告など様々な手法が考えられます。  倉敷川畔で特に危険な箇所から、様々な方法を試行的に実施し、景観との調和を慎重に 検証しながら整備をめざしていきます。 2.バリアフリーモデルルートの整備(路面の凹凸、中橋の段差の改善等)第T期  車いす使用者やベビーカーにとって路面の凹凸は振動となり、段差は大きなバリアとな ります。また、路面の凹凸や小さな段差は、下肢不自由者や高齢者等にとって、つまずき の原因にもなります。  主要経路をバリアフリーモデルルートとして、すべての人が安全、安心に通行できる経 路として整備をしていく必要があります。  中橋の段差解消をはじめ、主要経路においては、つまずきやすい凹凸は解消するなど舗 装の改善などに取り組んでいきます。 3.新渓園の周遊・散策ルートの充実 第T期  観光バスの発着地となっている観光バス駐車場から美観地区へのアクセスルートとして、 新渓園内の通路を多くの方が利用しています。新渓園は、大原美術館の新館と分館の間に 位置することからも重要な経路となっています。  しかし、西門の入口には数段の段差があり、車いす使用者等は入ることができない状況 になっています。このため、段差を解消し、バリアフリー化された経路の充実を図ってい きます。 4.電線類地中化等による歩行空間の確保 第T期 5.交通規制等による歩車共存道路化への取り組み 第T期  美観地区の観光は、町なみを眺めながら周遊・散策することが最大の魅力となっていま す。その中で、本町、東町の通りは、歴史的なまちなみと街路の一体感に魅力があり、来 訪者等の周遊・散策のルートとして、充実させていきたいところです。  しかし、狭い道路空間のわりに、に車の通行量が多く、歩行者が安全に安心して歩くこ とが難しくなっています。このため、電線類地中化や側溝蓋の設置などにより、可能なか ぎり空間を確保することをはじめ、交通規制や車が減速するような工夫を行うことで、安 全、快適な歩車共存道路整備をめざしていきます。  実施にあたっては、沿道住民の方の理解と協力が不可欠であり、生活に支障がないよう 配慮していく必要があります。また、景観との調和も図っていく必要があるため、社会実 験など試行的な整備を行った上で、慎重に検討を進めていく必要があります。 6.既存サインの改善 第T期  地区内には、いくつかのサインが設置されていますが、十分な情報が掲載されていなか ったり、文字が小さく見えにくかったり、サインそのものが見つけにくかったりと多くの 課題があります。  倉敷市では、倉敷駅周辺誘導案内施設の改善に取り組み、サイン整備のガイドラインを 策定しています。このガイドラインに基づき、既存サインを中心に、多様な人々の利用に 配慮した、わかりやすい、見つけやすいサインへ改善していきます。  整備にあたっては、景観との調和に配慮し、設置場所やデザイン、大きさなどを考慮し ていく必要があります。 7.新しい移動支援システムの導入検討 第U期 8.観光介助ボランティアの導入 第T期  美観地区内の周遊・散策をすべての人に楽しんでもらう上では、特に、視覚障害者への 誘導など技術的に解決が難しい課題も多くあります。残されています。当面は、完全解決 が難しい課題についても、新しい技術の導入やソフトによる支援など、で改善を図るため の施策を継続して行っていく必要があります。  倉敷市では、平成18年度に「まちめぐりナビプロジェクト事業」に取り組み、情報携 帯端末を利用した新しい誘導案内を試みました。この実験を活かして、対象者の幅を広げ、 ユニバーサルデザインの誘導案内の実施をめざしていきます。ただし、現在、携帯端末を 用いた新しい誘導案内システムは、全国的にスタンダードな技術が確立されていない分野 であることから、技術の発展性やソフトとの連携のしやすさなどを考慮し、実施へ向けて 検討をしていく必要があります。  また、観光者への介助を目的とした新たなボランティア制度など、ハード整備による対 応だけでなく、と地域住民の「おもてなし」による新たな魅力づくりに取り組んでいきま す。   (2)憩う 9.観光案内所(倉敷館)の機能充実 第T期  美観地区内の周遊・散策を楽しむ行動の中で、少し立ち止まって休憩したり、語らいを もつ空間は、とても大切です。その中で、歴史的な建物を活用した観光案内所(倉敷館) は、周遊・散策の中心に位置し、多くの来訪者の憩いの空間となっています。  現在は、1階に観光案内窓口を設置し、パンフレット等を入手できるほか、飲み物等を 購入して休憩できるスペースが設けられています。  また、2階は、窓から眺める倉敷のまちなみが素晴らしく、空間として活用できるだけ でなく、窓から眺める倉敷のまちなみが素晴らしく、“倉敷らしい”憩いの空間として更な る活用が望まれています。このため、歴史的、文化的な建物価値に配慮しながらエレベー ターの設置などのバリアフリー化を検討していきます。   10.休憩場所(ベンチ)の増設 第T期  美観地区内を高齢者、障害者などが周遊・散策するためには、それぞれのペースで、適 宜、休憩できる場所が必要です。また、町なみを満喫するためにも座ってゆっくり眺める ことのできる空間が重要になります。  既に、倉敷川畔には、商業施設等がベンチを提供しているところがありますが、さらに 充実をめざしていきます。  設置にあったては、景観への配慮が必要なことはもちろんのこと他、維持管理のあり方 なども含め、沿道事業者等と協議調整を図りながら検討していく必要があります。 (3)施設に入る(入口) 11.施設入口の段差解消 第U期 12.伝統的な建物は、ポータブルスロープの設置 第T期 施設を利用するためには、まず は施設内に入られなければ利用できません。このため、市民ワークショップなどでも、ま ずは入口の改善が必要であるとの意見が多くありました。  可能な限り、スロープを設置するなどの改善が必要ですが、伝統的建造物群等を構成し ている重要な建物は、文化価値の保全から物理的な改善が困難な状況不可能です。このた め、簡易な斜路(ポータブルスロープ)を設置して、車いす使用者の来場の際は、施設管 理者が対応できるようにしていくことをめざしていきます。  整備にあたっては、施設管理者である事業者の理解と協力が不可欠です。このため、整 備の必要性について広報、啓発を行うとともに、介助マナーの講習などソフトの充実と並 行して取り組んでいく必要があります。 13.補助犬同伴可ステッカーの掲示 第T期 14.(仮称)ウェルカムステッカーの掲示 第T期  補助犬(盲導犬、介助犬、聴導犬)は障害者の方々にとって、大切なパートナーです。 補助犬の円滑な利用が図れるよう、平成14年10月に「身体障害者補助犬法」が施行さ れ、施設等での補助犬の同伴受け入れが明記されました。  美観地区内でも盲導犬同伴可ステッカーの掲示をしている施設がありますが、今後は、 補助犬同伴可ステッカーの掲示など、幅広く受け入れできる体制を整え,気兼ねなく利用 してもらえる雰囲気づくりに努めていく必要があります。また、ワークショップなどでは、 障害者から「筆談をしてもらえること」や「介助してもらえること」などが、あらかじめ 入口付近でわかると利用しやすいなどの意見があり、また、ベビーカー使用者からでは、 「手伝いをして欲しいが、こちらからは言いにくい」を申し出にくいなどの意見もありま した。美観地区では、ユニバーサルデザインの観点からおもてなしすることをめざして、 すべての人への配慮を意思表示できる「(仮称)ウェルカムステッカー」を作成し、掲示し ていくことに取り組んでいきます。実施にあったては、施設管理者である事業者の理解と 協力が不可欠です。このため、整備の必要性について広報、啓発を行うとともに、介助マ ナーの講習などソフトの充実と並行して取り組んでいく必要があります。 (4)トイレを使う 15.多目的トイレの機能の充実 第T期 16.既存トイレのバリアフリー化 第U期 17.(仮称)おもてなしトイレ制度の導入(民間トイレの開放)第T期  高齢者、障害者をはじめ来訪者にとってトイレは必要不可欠な重要な施設です。アンケ ート調査では、障害者の多くが事前にトイレの情報を収集しています。また、ワークショ ップ等においてもトイレに関する整備を優先すべきとの意見がありました。  美観地区内には、3箇所の多目的トイレと2箇所の公衆トイレが整備されています。ま ずは、既にある多目的トイレをだれもが、使いやすいトイレにするために、オストメイト 対応などの機能充実を図っていく必要があります。また、抜本的なバリアフリー化が難し い既存のトイレにおいても、手すりの設置や洋式便器の設置など、高齢者や障害者等が使 いやすい工夫をしていく必要があります。  さらに、民間トイレの開放を制度化し、(仮称)おもてなしトイレ制度として地区全体に 広げることで、どこでもいつでもトイレに困ることのないサービスを、事業者の方々の理 解と協力で実現をめざしていきます。 (5)情報を得る 18.ホームページによる事前情報提供の充実 第T期  高齢者、障害者アンケート結果では、約80%以上の来訪者が事前に情報収集をしていま す。高齢者はガイドブックなどの書籍やパンフレットによる収集が多く、障害者はインタ ーネットの活用率が約60%と高くなっています。また、情報の内容では、宿泊施設や観 光施設の情報、交通機関の情報などが高く、車いす使用者では駐車場の情報、多目的トイ レの情報の収集率が高くなっています。  事前情報を詳しく入手できることにより、美観地区を快適に安心して楽しむことができ るため、多様な手段で事前情報を提供していくことが必要です。事前情報の提供は、美観 地区の魅力を広報していくことにもつながる重要なことなので、“歴史、文化、人々の心の 美しさを五感で感じるまち・美観地区”を広くアピールしていきます。  情報提供はパンフレット、インターネットなど多様な媒体を用いて行ったり、多言語対 応への配慮が必要です。本市が提供しているパンフレットやホームページの観光情報など は既に4ヶ国語で対応しています。  また、情報は日々変化するため、情報の追加、更新等については、同様に多様な媒体に より、多言語での対応を継続していく必要があります。さらに、適切な情報更新のしくみ づくりなどにも取り組む必要があります。 19.(仮称)おもてなしマップの作成 第T期  現地情報を入手する手段として、観光案内マップは有効有用です。既に様々なものが作 成され、観光案内所等で多くの来訪者が利用しています。  しかし、バリアフリーに関する情報は少なく、多目的トイレの情報をはじめ、車いすで の利用可能な施設や経路などの情報を追加していく必要があります。また、歴史的な町な みを残す美観地区では、景観保全の観点からすべてをハード面から物理的にバリアフリー 化していくのが難しい状況であり中で、事前に、バリアフリー情報などを知らせておくこ とも大切提供であるとワークショップ参加者等から等で意見がありました。  すべての人がそれぞれの楽しみ方ができるように、美観地区のバリアフリーに関する情 報、バリアに関する情報を提供するものとして(仮称)おもてなしマップを作成ってして いきます。マップには、トイレの位置やバリアフリー施設など施設情報のほか、観光ボラ ンティアの依頼方法などソフトに関する情報もあわせて掲載し、ハードとソフトの両面か らのおもてなしについて、情報提供をめざしていきます。 20.(仮称)まちなみ解説板の整備 第T期 21.観光ボランティアガイドの充実 第T期  美観地区の観光体験を行ったワークショップにおいて、倉敷の町なみ、歴史、文化を知 る、学ぶ機会の充実が必要との意見がありました。  なまこ壁、土蔵造など美観地区の町屋の特徴や積み出し港として栄えたことを伝える常 夜灯、荷揚げ場、大八車を通すための石畳などを解説する(仮称)まちなみ解説板の整備 を行います。また、観光ボランティアガイドでは、視覚的に歴史、文化を知ることが難し い視覚障害者への配慮などに取り組み、ソフトでの情報提供を充実していきます。  (仮称)まちなみ解説板の整備にあたっては、景観保全への配慮から、デザインや設置 場所等を慎重に検討していく必要があります。 (6)宿泊する 22.バリアフリー対応の宿泊部屋の整備 第U期 第T期 23.通路等の改修 第T期 24.緊急時のバリアフリー対応(非常時の伝達方法など)第T期 25.備品(机、椅子など)等のバリアフリー対応 第T期 26.おもてなしの充実 第T期美観地区内の主要な宿泊施設では、入口の段差解消などバ リアフリー化への取り組みが行われていますが、長期的にはバリアフリー化された宿泊部 屋の確保などにも取り組んでいくことが望まれます。  整備にあったては、建物のデザインや文化的価値の保全にも配慮が必要であり、建物構 造的に大幅な改築が難しい場合もあります。また、緊急時のバリアフリー対応については、 全国的にも取り組みが遅れています。このように多くの課題を抱える中で、推進にあたっ ては、施設管理者の理解と協力が大切であり、適切な情報提供などの支援をはじめ、意識 啓発に取り組んでいくことも重要です。  一方で、ワークショップの参加者から、ソフトによる対応が、最も重要であるとの意見 がありました。声かけや適切な介助など、おもてなしの充実に取り組むことがバリアフリ ー化への第一歩となります。介助のしかたなどについては、障害者の方に協力いただき実 体験することや、介助マナーの講習を行うなど、ソフトの支援も並行して取り組んでいく 必要があります。 (7)食事する・購入する 27.通路等の改修 第U期 28.備品(机、椅子など)等のバリアフリー対応 第U期 29.車いす使用者等優先席の表示 第T期 30.点字メニューの設置 第T期 31.おもてなしの充実(声かけ、介助)第T期  来訪者の多くが美観地区で食事をしたり、おみやげものを買ったりしています。美観地 区のこれらの店舗の多くは、歴史的な建物を活用しており、雰囲気そのものが観光の魅力 となっています。また、これらの行動を通じて、地域の人々とのふれあいや語らいを楽し むことができます。  ワークショップ等の参加者から、おもてなしの心を示すことが、最も大切なバリアフリ ーであるとの意見がありました。声かけや適切な介助など、おもてなしに取り組み、点字 メニューや備品のバリアフリー化など、できることから少しづつ取り組んでいく機運が必 要です。その一例として、「入口に近く入りやすい席を車いす優先席として表示してはどう か」との提案が検討会委員からもありました。  バリアフリー化の推進にあたっては、施設管理者の理解と協力が大切であり、適切な情 報提供などの支援をはじめ、意識啓発に取り組んでいく必要があります。 おわりにー持続発展的な事業の推進に向けて−    美観地区のバリアフリー化は、市民、事業者、行政が共通認識を持ち、互いに協力でき る体制がなければ推進することができません。また、事業の実施にあたっては、景観保全 との調和について慎重な検討が必要であり、関係機関との協議調整などを行っていく必要 があります。特に歴史的建造物の保全、景観との調和など制約条件が多い中で、新たなバ リアフリー技術の開発動向なども考慮しながら、長期的に取り組んでいく必要があります。  “歴史、文化、人々の心の美しさを五感で感じるまちづくり”の実現に向けて、持続発 展的に取り組むことが重要であり、市民、事業者、行政が互いに連携、協働し、よりよい 取り組みに発展させるしくみが必要となります。  倉敷市では、次の2つのしくみを構築し、事業を推進していきます。 (1) 事業の進捗管理と協議・調整ならびに事後評価  倉敷市では平成18年に策定された倉敷市交通バリアフリー基本構想の事業進捗管理等 を行う組織として、市民、事業者、行政、学識経験者等で構成される「倉敷市交通バリア フリー推進協議会」を設置しています。  この推進協議会を活用しながら、美観地区バリアフリー整備事業の進捗管理を行ってい きますが、事業化においては様々な課題があるため、市民、事業者、行政が互いに協議、 調整を行う場、情報交換の場、事業の見直しの検討の場などを設けていきます。  また、事業の実施にあたっては、市民、来訪者の視点で評価を実施することが大切であ り、日々変化する来訪者の動向やバリアフリー技術の進歩などを踏まえ、定期的に見直し を行うことも必要になります。  このため、事業スケジュールの管理はもとより、定期的に事業の事後評価及び見直しを 実施していきます。 (2) 情報の共有・発信、技術支援・表彰等の体制づくり  美観地区のバリアフリー化の推進には、景観を保全する観点から,歴史的建造物との調 和を図る上で,多くの制約条件があります。そのような中、具体的な事業を実施していく にあたって、どのように改善すればよいのかわからないということも予想されます。  また、バリアフリー化の推進を長期的に継続的に取り組む必要があることから、その機 運を継続させていく工夫も重要となります。  このため、バリアフリーに関する技術情報の共有の場や、美観地区内の取り組み事例、 進捗状況について継続的に情報発信するしくみやバリアフリー化についての適切なアドバ イスが受けられるしくみ、先進的な取り組みを表彰するしくみなどについて、地域住民、 事業者をはじめ、関係機関やまちづくり、バリアフリー関連の専門家などの協力を得なが ら、情報の共有・発信、技術支援・表彰等の体制づくりをめざしていきます。 2