オレンジ色のクマゼミ

2020年夏、「岡山市内で採集した名前がわからないセミを見てほしい」という1本の電話から事件は始まったのでした。

この辺のセミは数種しかいないから見ればわかるだろう、と思うじゃないですか。

翌日、持って来られたのが、このセミ。

「え?あれ?なんじゃこりゃぁーっ!」 鳴き声で正体判明、前代未聞の異常型クマゼミとしてセミの専門誌「Cicada、vol.27. no.1」の表紙を飾りました。

捕まえて博物館に持ってきてくれた小学生、えらいぞっ!

オレンジ色のクマゼミ

フサヒゲルリカミキリ

写真の標本は1946年、鳥取県大山産。当地ではすでに絶滅した可能性が高い。

カミキリムシの中では珍しく木でなく草に依存する。

食草のユウスゲはあっても、残念なことにこのカミキリムシの生息地は年々減り、今では岡山県の蒜山高原が最後の生息地かとうわさされるほど危機的な状況にある。

国内希少野生動植物種、「環境省レッドリスト」絶滅危惧IA類、「岡山県版レッドデータブック」絶滅危惧I類。

フサヒゲルリカミキリ

再発見された水草ムサシモ

ムサシモはトチカガミ科の水草で、全国的にきわめて稀とされる。

岡山県では1982年の発見以来、記録が途絶えていた。

2022年に県内の別の場所にて、倉敷市立自然史博物館友の会会員の方が発見、証拠標本(写真)が当館に寄贈された。

じつに40年ぶりの記録である。

博物館研究報告第38号に報告(小橋, 2023)。

再発見された水草ムサシモ

観察会で見つかった帰化植物ズングリオヒシバ

2022年6月、高梁市で開催された観察会の集合場所にて、当館の植物担当が発見、採集した(写真)。

ズングリオヒシバは南米原産の帰化植物で、在来種オヒシバよりも短くずんぐりした花序を持つ。

岡山県からは初記録、全国では神奈川県と兵庫県に次ぐ3例目。

博物館研究報告第38号に報告(鐵, 2023)。

観察会で見つかった帰化植物ズングリオヒシバの標本(全体の画像)

観察会で見つかった帰化植物ズングリオヒシバの標本(穂先の画像)

瀬戸内海産唯一の標本オオシャミセンガイ

国内では有明海が代表的な産地として知られていたが、近年では絶滅寸前となっている。

瀬戸内海では明治時代にエドワード・モースが兵庫県明石市で採集しているが、それ以降は明確な記録がなかった。

この標本は畠田和一が1930年代〜1965年に備前未崎沖(現・岡山市北区小串未崎沖)で収集したもので、岡山県のみならず瀬戸内海産唯一の確実な産出の証拠である。

岡山県ではその後絶滅したと考えられる。

岡山県:絶滅、環境省:絶滅危惧ⅠA

 瀬戸内海唯一の標本 オオシャミセンガイ

北朝鮮ピョンヤン産ガマノセガイ

 Aculamprotula coreana (Martens, 1886)

和名は波打つ殻表をガマガエルの背中に見立てたもの。

殻は著しく重厚で、内面は真珠光沢が強い。

朝鮮半島固有の淡水産二枚貝類で、北朝鮮産の標本はもはや再入手が困難。

1930年代、京城帝國大學微生物學教室にいた芝昇から、畠田和一が譲り受けたもの。

ラベルに「平壤 芝昇氏ヨリ」とある。

畠田コレクションには、同様のラベルを持つカワヒバリも現存する。

北朝鮮ピョンヤン産ガマノセガイの標本

島根県大田市石見銀山(永久鉱床)の銀・銅鉱石

世界遺産になっている石見銀山は1526年に鉱床が発見され,その後、江戸時代にかけて栄えた(1943年閉山)。永久鉱床と福石鉱床という2つの鉱床からなり,両者は1km程度離れているが,ともに約100万年前に低温の熱水からできた。

永久鉱床は黄銅鉱を多く伴う銅・銀鉱脈で、その鉱石はこの標本のような茶色の菱鉄鉱を伴う銀鉱物の微粒子を含む黄銅鉱(金色)で、明治時代にも銅・銀の採掘が行われた。

石見銀山は明治以降は大森鉱山とも呼ばれた。

島根県大田市石見銀山(永久鉱床)の銀・銅鉱石

兵庫県朝来市生野鉱山(生野銀山)の高品位銀鉱石

日本遺産の生野鉱山は日本有数の大規模鉱山で、16世紀~江戸時代に銅・鉛のほか、銀の産出が多かった。

しかし、明治以降は銀よりも銅・亜鉛・鉛・スズなどを主目的に採掘が行われた(1973年閉山)。

これは江戸時代に手掘りで採掘された地表近くの鉱脈は銀に富み,明治以降,欧米のダイナマイトなどを使った採掘方法で地表から約200mより深い鉱脈へ採掘が進むと,銅・鉛・亜鉛・スズなどの産出が多くなったためである。

したがって,生野鉱山は生野銀山と呼ばれながらも現存するその銀鉱石は少ない。

この銀鉱石は全体的に石英質で,輝銀鉱と自然銀を多く含む灰黒色の部分と,それに挟まれるように黒変した粗い自然銀を伴う白い石英が見られる。

そして、昭和時代には生野鉱(ikunolite)などの世界新種の鉱物や、日本で未発見であった鉱物が報告された。

兵庫県朝来市生野鉱山(生野銀山)の高品位銀鉱石

岡山県産オオクワガタ

オオクワガタはダントツの人気昆虫であるが、それ故に採集圧の影響を受けやすく、限られた産地は公表されない傾向にあるため、現在の生息状況はつかみにくい。

一方では大量の飼育個体から野外へ逸出する事態も懸念される。

間野幹男コレクションに含まれるオオクワガタは1940年代から1950年代にかけて現在の岡山・倉敷市域で採集されたもので、正真正銘の野生個体である。

「環境省レッドリスト」絶滅危惧Ⅱ類、「岡山県版レッドデータブック」情報不足。

岡山県産オオクワガタの標本

満洲国の昆虫

間野幹男コレクションに含まれる標本群で、幹男氏の弟、間野敏男氏が軍医として日本統治時代の満洲国に滞在中に採集したもの。

多くは1941年の採集でデータラベルに「サルト」と記されている。

現在の中華人民共和国黒竜江省大慶市薩爾図(サルト)区で得られたものと思われる。

ヒョウモンモドキ類やフサヒゲルリカミキリ類など、日本では絶滅危惧種を連想させる顔ぶれが多い。

現在の当地ではどうだろう。

満洲国の昆虫標本